インフレは新興国市場をどう動かすのか?
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2008年06月12日
金融市場の話題は「インフレ」一色
金融市場のテーマは「インフレ」一色になっています。原油価格がここ数ヶ月、毎月毎月二桁の上昇を見せており、世界中の全ての中央銀行が、程度の差はあれど、「インフレに対する警戒」を連日表明しています。金利もこの数ヶ月でかなり上がっています。
筆者は今ロンドンに来ていますが、こちらでも話題はインフレ一色です。今回は筆者がこちらで様々な議論を重ねたなかで、今後仮にインフレが止まらなかった場合、新興国市場が最も影響を受ける可能性が高い、という結論に達しましたので、その辺りをご説明したいと思います。
今回のインフレは「エネルギー」と「食料品」の「コスト・プッシュ・インフレ」
まず今回のインフレの特徴からおさらいします。今回のインフレは紛れもなく「景気が悪化している中で、原油や穀物といった一次産品の値段が上がる」インフレです。これを経済学では「コスト・プッシュ・インフレ」(直訳すると「費用の上昇によるインフレ」)といいます。
一般的なインフレは、景気が良すぎておきるインフレ「ディマンド・プル・インフレ」(「需要増大によるインフレ」)といいます。今回のインフレはこうした一般的なものとははっきりと区別され、現象としては「物価上昇」という点で共通していますが、実態的にはまったく違うものとみなされています。
コスト増で最も割りを食うのは? - 新興国
こうしたエネルギーと食料品の価格上昇の影響の受け方は、人によってそれぞれ違います。例えば車によく乗る人にはガソリン価格の上昇は大変痛いですが、まったく乗らない人にはそれほど影響はありません。また、所得が低くエンゲル係数が高い人は食料品の価格上昇の影響を大きく受けますが、食費など気にもしないようなお金持ちにとってはあまり関係ありません。
これを「国」の単位で考えてみると、一般的に「所得の低い国の方が大きな影響を受ける」ということがお分かりになると思います。例えば日本人と中国人の生活を比べてみると、平均的な中国人の方が平均的な日本人よりも消費全体に占める食費の割合が高いことは容易に想像がつきます。
原油などについても同じことが言えます。石油の値段はだいたい世界中どこにいっても同じですが(日本とアメリカでガソリンの値段が全然違うのは税金の差で、ガソリンそのものはそれほど変りません)、この価格上昇も貧しい国ほど痛く感じるはずです。さらに貧しい国はエネルギー効率の高い先進的な設備や自動車等を買う余裕がありませんので、いっそう大きな影響を受けがちです。
また新興国では一次産品価格が上昇しすすぎたために買える量が減っており、停電や食糧不足といった深刻な「ボトルネック」が一部でおきています。これも貧しい国特有の現象です。
新興国のインフレには好景気による「ディマンド・プル」の側面も
また、新興国の状況にはもうひとつ重要な懸念があります。先進国の場合はどこも景気が下降気味で状況はあきらかにコスト・プッシュ・インフレですが、新興国は多くの国で景気好調が続いており、足元のインフレが「ディマンド・プル」の側面も同時に持っていることです。
従って多くの新興国では先進国を上回る高いインフレ率になっています。これは非常に危険な状態です。インフレは社会不安を招きますので、できるだけ抑える必要がありますが、これが上がり続けているからです。
もちろん、新興国にとって一次産品の上昇の影響は先進国以上に大きいですから、このままいけばどこかで景気がピークを打ちインフレも収まってくるという可能性もありますが、現在の状況を見る限り一刻も早く手を打たないと、加熱の反動から急に景気が悪くなる可能性が高まっていると言わざるを得ません。
新興国市場に必要なのは「大幅な通貨上昇」、株式は厳しいか?
以上のように考えると、新興国の株式はかなり大きなリスクを抱えていると言わざるを得ません。産油国や食料品をたくさん生産している国など例外はありますが、多くの国が先進国以上にインフレの影響を受けることが予想されますので、企業の利益は先進国よりも厳しい状況が続くことが予想されます。新興国株式は石油に対する依存が高いアジアや東欧などでとくに厳しくなる可能性があります。
しかしながら、通貨はうまくいけばかなり好調になるものと予想されます。新興国は一刻も早い「引き締め」を行い景気のこれ以上の加熱を防ぐ必要がありますが、もっとも有効な引き締めは「通貨上昇」です。通貨を引き上げて輸入品の値段を下げることでインフレを抑え、輸出の採算を悪化させることで景気の過熱を防ぐというやり方です。
この時、新興国の通貨は米ドルに多かれ少なかれ連動していることを考えると、まず米ドルが円やユーロと通貨にたいして上昇し、さらに新興国通貨が米ドル以上に上昇する必要があると思われます。結果としては新興国通貨が最も上昇し、次に米ドル、円やユーロはこれらの通貨にたいして下落するということになります。
ただし、こうしたシナリオ実現には実際にはかなり強力な「政治的なリーダーシップ」が必要になります。日本が80年代に大幅な円高を容認した「プラザ合意」のように新興国が自国通貨の上昇を認め、世界的に協調する必要があります。
仮にこれができない場合には新興国は90年代後半のアジア危機のように「クラッシュ」する可能性もあります。この場合は株式市場は暴落、通貨も暴落と言うことになるでしょう。そうなれば原油価格も暴落し、ロシアや中東のような産油国の市場も大きな影響を受けるかもしれません。
結論としては「原油価格上昇が続く限り新興国投資はリスクが高いと言わざるを得ない」ということです。ただ、仮に大きな政治的な協調体制ができるようなことがあれば、少なくとも新興国通貨は驚くほどの上昇を見せる可能性があります。今後の成り行きを見守りましょう。
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